KEN SASAKI International Tax Accountant Office

相続時精算課税制度の見直し(令和5年度税制改正)

相続関係情報

令和5年度税制改正により、相続税法及び租税特別措置法の一部が改正されました。主な改正の内容は次のとおりです。

(1) 相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除の創設
 暦年課税制度においては、少額不追及の観点 から基礎控除が設けられていますが、相続時精算課税制度は、生前に贈与を受けた財産につい ての課税上の精算を相続時に行うことが制度の前提とされていることから基礎控除が設けられていませんでした。 一方で、相続時精算課税制度では、その選択をした後の贈与については、その金額にかかわらず贈与税の申告をしなければならず、その手続が煩雑であるため相続時精算課税制度の利用が進まないのではないかといった指摘がありました。 この点について、相続時精算課税制度の利用を促進する観点から、相続時精算課税を選択した後の贈与についても、毎年110万円の基礎控除が設けられることになりました。なお、この 相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除は、従来の暦年課税に係る贈与税の基礎控除とは別のものとなっています。その結果、暦年課税に係る基礎控除と相続時精算課税に係る基礎控除とをそれぞれ適用することで、年間で最大220万円までの贈与について贈与税が課税されないことになります。
(注) 相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除は、暦年課税に係る贈与税の基礎控除(相法21の 5 )と同様に相続税法上は60万円となってい ます(相法21の11の 2 1)が、いずれも租税特別措置法で110万円に引き上げられています(措法70の 2 の 4 1、70の 3 の 2 1)。ここでは、いずれの基礎控除額も110万円という前提で解説します。
 この相続時精算課税に係る基礎控除の110万円は、受贈者 1 人につき毎年認められるものです。したがって、同一の年に 2人以上の特定贈 与者から相続時精算課税の対象となる贈与を受けた場合であっても、その年の相続時精算課税に係る基礎控除は110万円が限度となります。 この場合、各特定贈与者から贈与を受けた財産について適用される基礎控除の額は、110万円を特定贈与者ごとの贈与税の課税価格で按分し て計算します(相法21の11の 2 2、措法70の 3 の23、相令5の2、措令40の5の2)。
 今回の改正の前後における相続時精算課税に係る贈与税の計算式を示すと、次のようになります。

【改正前】
(その年中に特定贈与者から贈与を受けた財産の価額 – 特別控除額(累積 2,500万円))×税率(一律20%)

【改正後】
(その年中に特定贈与者から贈与を受けた財産の価額 – 基礎控除(110万円)(注) – 特別控除額(累積2,500
万円))×税率(一律20%)
(注) 同一年に2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合には、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格で按分


(2) 相続税の課税価格に加算される相続時精算課税適用財産の価額の改正
 改正前の相続時精算課税制度では、特定贈与 者の相続税の計算上、特定贈与者から贈与を受けた財産の価額が相続税の課税価格に加算されることとされていましたが、贈与時に上記(1)の相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除により控除された額については、特定贈与者の相続時に特定贈与者の相続税の課税価格に加算されな いこととされました(相法21の151、21の163)。 上記(1)及び(2)の見直しにより、相続時精算課税制度の使い勝手が向上するとともに、暦年課 税においても相続前贈与の加算期間が延びることで(詳細は後述の「相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算対象期間等の見直し」をご参照ください。)、結果として、より早いタイミングで子や孫への資産移転が行われるものと期待されています。


(3) 相続時精算課税選択届出書の提出方法の見直し
 相続時精算課税の適用を受けようとする者は、 特定贈与者から贈与を受けた財産の価額にかか わらず贈与税の申告をする必要があったことか ら、上記 1 (2)1及び2のとおり、相続時精算課 税選択届出書は、贈与税の申告書に添付して贈 与税の納税地の所轄税務署長に提出しなければ なりませんでした(旧相令 5 1、 5 の 6 1)。 しかし、今回の改正により相続時精算課税に 係る贈与税の基礎控除が設けられた結果、特定 贈与者から贈与を受けた財産の価額が基礎控除 以下である場合には、贈与税の申告が不要(相 法2812)となったことから、そのような場合 には相続時精算課税選択届出書のみを提出することができることとされるとともに、その旨を相続時精算課税選択届出書に記載することとされました(相令 5 1前段、 5 の 6 1前段、相規 101四、2五)。 なお、特定贈与者から相続時精算課税に係る基礎控除を超える金額の贈与を受けた場合や特定贈与者から贈与により取得した財産の価額が 相続時精算課税に係る基礎控除以下であってもその財産以外の財産を贈与により取得したため贈与税の申告が必要となる場合には、従来と同様、相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告 書に添付して提出することとされています(相 令 5 1後段、 5 の 6 1後段)。


3 適用関係
 上記2の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用されます(改正法附則191456、514、 改正相令附則2、5)。