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相続税の申告期限前の遺産分割のやり直しと贈与税

相続関係情報

 相続税法基本通達19の2-8では、「当初の分割により共同相続人または包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は分割により取得したものとはならない」ことを留意的に明らかにし、贈与に該当するとしています。
 これに対して、平成2年の民事訴訟に関する最高裁判決では、「すでに成立している遺産分割協議の全部または一部を相続人全員の合意により解除した後、改めて遺産分割を成立させたことにより取得した財産は、相続開始時に遡って相続により取得した財産である」と判示し、相続によって取得したものと判断しています。

平成2年9月27日最高裁第一小法廷判決
(土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件・最高裁判所民事判例集44巻6号995頁)

 共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解されるから、原判決がこれを許されないものとして右主張自体を失当とした点は、法令の解釈を誤ったものといわざるを得ない。

出典:裁判所HP「最高裁判所判例集

 さらに、平成11年の東京地裁の贈与税課税処分をめぐる判決では、平成2年の最高裁判決を踏まえたうえで、「再度の分割協議が当初の分割協議により帰属の確定した財産を分割協議の名の下に移転すると認められる場合には、その原因を相続によるということはできず、当初の遺産分割協議の合意解除および再度の遺産分割協議の成立が無制限に認められるものではない」と判断し、贈与税を課税した税務署の処分を支持しています。
 参考として、国税不服裁判所の裁決事例(平17.12.15裁決)もご併せて紹介しておきます。

参考 国税不服裁判所(平17.12.15裁決、裁決事例集No.70 259頁)

遺産分割のやり直しが行われた場合の課税関係
 遺産分割協議がいったん成立すると、相続開始時に遡って同協議に基づき相続人に分割した相続財産が確定的に帰属する。したがって、遺産分割協議をやり直して相続財産を再配分したとしても、当初の遺産分割協議に無効又は取り消し得べき原因がある場合等を除き、相続に基づき相続財産を取得したということはできない。そして、この場合、対価なく財産を取得したとすれば、贈与とみるほかはない。
 亡Gの相続財産について、本件遺産分割が成立し、これに基づき相続財産の分配がされた後、遺産分割をやり直し、請求人が、本件錯誤登記により、亡Hの所有権等の移転を受けたことは、本件遺産分割に無効又は取り消し得べき原因等がなければ、贈与ということになる。

国税不服裁判所(平17.12.15裁決、裁決事例集No.70 259頁

例題
 被相続人の法定相続人は、兄(長男)と妹(長女)の2名であり、相続財産である土地建物を2分の1づつの共有持分として相続することで合意し、相続登記も2分の1づつで行いました。その後、やはり兄一人の所有にしたいということで、共有による遺産分割を合意解除し、兄一人の所有として登記を行いました。
 なお、一連の行為は、相続税の申告期限前に行われています。このような場合、やり直しの遺産分割は、妹から兄への贈与とみなされるのでしょうか。

 例題の分割協議のやり直しが「帰属の確定した財産を分割協議の名の下に移転した」場合に該当すれば贈与税の課税の対象になりますが、そうであるかどうかは事実認定の問題になります。しかしながら、移転が相続税の申告前に行われていることからすれば、相続による取得と解する余地はゼロではないと考えられます。

参考法令
相続税法基本通達19の2-8

相続税法基本通達
(分割の意義)
19の2-8 法第19条の2第2項に規定する「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい、その分割の方法が現物分割、代償分割若しくは換価分割であるか、またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないのであるから留意する。
 ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。(昭47直資2-130追加、昭50直資2-257、平6課資2-114改正)

  • (注)「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうちの1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいい、「換価分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうちの1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部を金銭に換価し、その換価代金を分割する方法をいうのであるから留意する。