KEN SASAKI International Tax Accountant Office

産業財マーケティング(前編)

お役立ち情報

 公益社団法人東村山法人会の令和3年12月20日発行の会報誌278号に寄稿したコラムへのリンクと抜粋を掲載しておきますので、是非ご一読ください。

 産業財は、投入財(完成品の一部として投入される原材料や部品)と基礎財(生産プロセスで用いられる工作機などの設備)などに分けることができます。売り手も買い手も企業(business)であることから、産業財を対象とした市場を近年ではBusiness to Business(略してB2B)と呼ぶことが多くなっています。
 産業財マーケティングは、相対的に高い知識を持った限定的で少数の顧客との協働的な交換関係を通して、顧客の戦略を実現すべく展開されるところに特徴があります。

マーケティングの基本的な枠組み
 マーケティング戦略とは、「顧客の満たされないニーズを見つけ、定義し、それに対してソリューションを提供することにより顧客価値を創造する一連の施策」と考えられます。このマーケティング戦略を策定するプロセスは、次の2つの活動に分解することができます。
 まずは、市場を同質のグループに細分化し(segmentation/セグメンテーション)、その中で積極的に働きかけるターゲット顧客を選定すると同時にその顧客の仮説的ニーズを定義し(targeting/ターゲティング)、提供するソリューションとしての価値を顧客の心の中で位置づける(positioning/ポジショニング)活動です。これにより、どのような市場のどのようなニーズにどのような価値を提供するかという基本コンセプトを明確にすることができます。
 もう一つは、上記コンセプトを実現するための活動です。具体的には、ソリューションを具体化すべく、製品(product)を開発・設計し、価格(price)を設定し、販路(place)を設計・管理し、販売促進、略して販促(promotion)を検討するという一連の活動です。
 この4つの要素から構成されるマーケティング・ミックスを構築するためのプロセスは、「顧客市場におけるニーズを充足するための価値を、具体的な製品に仕立て上げて具現化し、その価値を買い手に価格を通して表示し、販促によって伝達しながら、顧客に価値を配達する販路や営業に関する方策を講ずる過程」と考えることができます。

B2B市場における顧客の分類
 B2B市場における顧客は大きく、民間企業、官公庁、機関という3つのグループに分類することができます。今回は、もっとも市場規模の大きい民間企業について説明していきます。
 民間企業の市場は、製造業、建設業、サービス業、流通業など多岐にわたっていますが、B2Bマーケティングが対象とする最大の市場は、製造業です。製造業の中でも、大手企業に購買力が集中しています。
 中小の民間企業は、数では圧倒的に多いのですが、購買額や購買量において占める割合は比較的小さいのです。大手顧客からの受注額が、売り手企業の売上高の大半を占めるケースも少なくありません。また、これらの大手企業は地理的にも集中する傾向があります。いわゆる需要の集中傾向が顕著です。
 民間企業の市場はさらに、「OEM = Original Equipment Manufacturer(完成品メーカー)」と「ユーザー」の2つに分けることができます。OEMとは、部品やモジュールなどの産業財を他社から購入し、それらを組み込んで、最終的にはB2C市場やB2B市場に供給される製品をつくる完成品メーカーを意味します。
 コンピューターを例にとると、インテルはCPUをパナソニックに販売し、パナソニックはそのCPUを自社のレッツノートに組み込んで、完成品としてのレッツノートを一般家庭(B2C)市場や法人(B2B)市場に販売しています。このケースのパナソニックがOEMにあたります。
 もう一つの市場であるユーザーは、組み込むために産業財を購入するのではなく、購入した産業財を用いて製品やサービスを生産し、それを産業財や消費財として、B2B市場、B2C市場で販売する企業です。ユーザーとしての顧客とは、例えば、ファナックから産業用ロボットを購入するアップル、フォルクスワーゲンを指します。
 ファナックの産業用ロボットは、スマートフォンや車の一部になってしまうわけではありませんが、こうした製品を作成する過程、つまり生産プロセスで使用されます。OEMが組み込み用として産業財を購入するのに対して、ユーザーは生産設備として産業財を購入するのです。


B2B市場の特徴
 B2C市場(顧客が一般消費財ユーザーである消費財市場)とB2B市場の間には大きな違いがあります。B2B市場では、B2C市場での伝統的なマーケティングのフレームワーク、いわゆる「STP+4Ps」の理論体系ではどうにも説明のつかないギャップがあるのです。
 主な違いを「B2B市場とB2C市場の特徴」として次表にまとめました。


B2B市場そのものの特性
 違いの一つとして、まず挙げられるのが、市場そのものの特性です。市場を、需要構造(顧客が特定少数の大口顧客に集中しているのか、不特定多数の小口顧客に分散しているのかという要素)の2軸によって分類することができます。

 B2Cの場合は、市場は不特定多数で、同質的なニーズを持ったグループが存在することが前提です。それに対して、B2Bの場合は、主対象が、比較的多数の企業から構成され、個々の顧客が異質なニーズを持っている右上の象限と、ごく限られた少数の企業から構成され、個々の顧客が異質なニーズを持っている右下の象限から成ると考えられます。
 右上の領域には、市場全体をセグメントに細分化し、標的セグメントを絞り込むSTPのプロセスがフィットします。B2Cの市場におけるアプローチときわめて類似しています。
 右下の領域では、一社一社カスタマイズすることを前提とした One to One マーケティングの考え方が当てはまります。ここでは、顧客数が限定されているため、セグメンテーションのステップを省略することができます。売り手にとって魅力ある顧客の選択であるターゲティングから考えれば事足りる領域です。

 次回は「B2B市場とB2C市場の特徴」の「保有する情報量からみた購買者の特性」以降の項目についてお話ししますので、お楽しみに!
 産業財(B2B)マーケティングにご興味を持った方は文末の参考文献を是非お読みになってください。

参考文献

  • 笠原英一(2018)『戦略的産業財マーケティング B2B 営業成功の7つのステップ』東洋経済新聞社