公益社団法人東村山法人会の令和4年2月20日発行の会報誌279号に寄稿したコラムへのリンクと抜粋を掲載しておきますので、是非ご一読ください。
産業財は、投入財(完成品の一部として投入される原材料や部品)と基礎財(生産プロセスで用いられる工作機などの設備)などに分けることができます。売り手も買い手も企業(business)であることから、産業財を対象とした市場を近年では Business to Business(略してB2B)と呼ぶことが多くなっています。
産業財マーケティングは、相対的に高い知識を持った限定的で少数の顧客との協働的な交換関係を通して、顧客の戦略を実現すべく展開されるところに特徴があります。
B2B市場の特徴
B2C市場(顧客が一般消費財ユーザーである消費財市場)とB2B市場の間の主な違いをまとめた表が、次の「B2B市場とB2C市場の特徴」です。
主な違いのうち、「B2B市場そのものの特性」については、前回、説明しましたので、今回は「保有する情報量からみた購買者の特性」以降の項目についてお話しします。
保有する情報量からみた購買者の特性
次の違いが、保有する情報量からみた購買者の属性です。具体的には、売り手と買い手の持っている情報量の相対的な格差のことですが、B2BとB2Cでは売り手と買い手の持っている情報量が大きく異なります。
つまり、一般消費者から構成されるB2C市場では、売り手である企業が自社の製品やサービスに関して持っている情報量は、一般的な消費者としての買い手に比べて、圧倒的に多いのです。
それに対してB2B市場の場合、買い手企業では設計、開発、生産管理、そして購買などの部門のメンバーが集まって、購買センター(buying center / BC)、もしくは、意思決定ユニット(decision making unit / DMU)などと呼ばれる組織体が形成され、これを主体に、情報収集や評価をしながら購買プロセスが展開されることが一般的です。
それぞれ専門知識を持ったメンバーが組織で判断するわけで、売り手との情報格差は少なくなります。時には買い手のほうが情報量を持っている場合も少なくありません。
購買目的
次に、購買目的も異なる。B2C市場の顧客は、いわゆる、「嬉しい!」「楽しい!」「心地よい!」「美味しい!」「かわいい!」、英語でいうと、”WOW!” “Cool!” “Fabulous!” というような感性で購入する場合が少なくありません。
一方、B2B市場における買い手企業の購買の背景には、コスト削減(単に、製造原価の低減にとどまらず、販売一般管理費等も含めたトータルコストの削減)とか、品質アップ、売上拡大、ブランド力アップ、マージン拡大、利益の最大化とか、一言でいうと企業として達成したい目標や課題が背景にあります。
言い換えると、購買目的は、B2C市場では生活の質(quality of life)の向上であるのに対して、B2B市場では事業における戦略実現です。顧客のニーズを考察する必要があるということも意識してください。
購買対象となる製品
購買対象になる製品も、B2B市場の場合は消費財のようにカタログに載っているような標準品に限りません。むしろ顧客独自の特注仕様に基づいてカスタマイズされた製品であることが少なくありません。
生産システムも消費財の場合は、標準仕様に基づく見込み生産(build to stock)によるマス・プロダクションが中心であるのに対して、産業財の場合は、特注仕様に基づく受注生産(build to order)の形態か、またこの両者の中間であるセミ・カスタマイゼーションの形態をとることのほうがむしろ一般的であるかもしれません。
これは、顧客の特定のグループに共通して使用可能な部品、コンポーネントを標準化し、かつ量産することによりコスト効率を改善させながら個々の顧客企業の要望にも答える形態です。
競争戦略やポジショニングを検討する場合は、適応化と標準化がポイントとなることも少なくありません。
意思決定
意思決定についても、前述のとおりB2Cでは基本的に個人で購買を決定するのに対して、B2Bでは組織購買が基本です。市場に対するアプローチとしてのチャネル政策や営業政策を検討する際、購買センター(buying center / BC)とか意思決定ユニット(decision making unit / DMU)と呼ばれる組織体を構成する個々のメンバーを考慮しなければならないこともB2Bマーケティングの特徴です。
売り手と買い手の関係
売り手と買い手の関係も大きく異なります。B2Cでは、店頭で現物を確かめて、通販ならばカタログでチェックして、代金を払い所有権が移転するという単純な取引的交換です。これに対して、上記のカスタマイゼーションの水準と関連していますが、B2B市場では、売り手と買い手間で協働的な交換関係をもとに両者で価値の共創を行うことが多いのです。なお、協働的とは、売り手企業と買い手企業が得意の分野で、同じ目的に向かって力をあわせることで、単純に同じことをやる共同とは異なります。
購買センターに属する複数のメンバーが売り手企業の営業・マーケティング、研究・開発、企画・設計等の専門家と相互作用を行いながら、新たな価値を創っていくことになります。
売り手企業と買い手企業の関係は、常に深化し続けるということではありません。時として、振り出しに戻ったり、二度と発注したくないというようなマイナス評価になる場合も想定されます。買い手企業と売り手企業の間に信頼感や紐帯感が形成され、引き合いから受注、納品、問題解決へと発展するよう、両企業の間の関係を管理することが営業活動のテーマと考えてもよいでしょう。
なお、紐帯とは、愛着、愛情、友情、尊敬の念を構成要素とする社会的つながりを意味します。
産業財マーケティングにご興味を持った方は文末の参考文献を是非お読みになってください。
参考文献
- 笠原英一(2018)『戦略的産業財マーケティング B2B 営業成功の7つのステップ』東洋経済新聞社