KEN SASAKI International Tax Accountant Office

白色申告で最低限必要な簿記の知識(改定版)

お役立ち情報

 弊所の旧ホームページでクリック数が多かった記事の一つが、今回の「白色申告で最低限必要な簿記の知識」です。当初の投稿から日も経ち、ホームページも移転しましたので、改訂版をご紹介します。

これだけは知っておきたい最低限の簿記知識

 税理士の私が言うのもなんですが、簿記ってつまんないんですよね。租税法とか経営学とか経済学などは面白いと思うのですが、簿記はどうも好きになれません。私の他にも簿記は苦手とか簿記は嫌いとかご賛同いただける方は多いと思います。
 さて、今回は、簿記が嫌いだったり苦手な白色申告者の方のために最低限必要な簿記についてお話しします。
 簿記の知識があったほうが良いことに間違いはありませんが、どの程度の知識が必要なのでしょう。
 「簿記の知識が要らない」という宣伝文句の会計ソフトやクラウド会計もありますし、国税庁のHPに掲載されている「帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)」、「帳簿の記帳のしかた(不動産所得者用)」を読んでみても白色申告の場合は、貸方とか借方という初歩的な専門用語さえ使われていませんので最低限の知識があれば、なんとかなると思われます。
 個人の白色申告の場合、簿記3級程度の知識があれば理想的なのですが、一般に簿記3級合格には概ね60時間から70時間必要と言われていますので、毎日1〜2時間勉強するとしても2ヶ月程度はかかります。
 そうは言っても、日々多忙な皆さんは、簿記の勉強にそんなに時間はかけられませんので、①「勘定科目」、②「貸方・借方」、③「減価償却」、④「事業主貸・事業主借と元入金」、⑤「家事消費・家事関連費・事業専用割合」とりあえず、この5つがある程度理解できれば、青色申告の特典をはじめとした税法上の各種特典を受けることは無理としても、収支内訳書の作成はなんとかできるのではないかと思います。
 白色申告の場合、収入金額や必要経費を記帳して、請求書や領収書を保存するよう所得税法上規定されていますが、仕訳をしろとか〇〇帳を作成しろと規定されているわけではないのです。私の記事「白色申告の帳簿」と「白色申告の記帳義務の罰則規定と消費税」でも記載した通り、家計簿の延長のような帳簿でも① 取引の相手方(売上先・仕入先等)の氏名・名称、② 取引を行った年月日、③ 取引内容、④ 取引金額の4つが記帳した帳簿と保存している請求書や領収書から特定できれば、充分なわけです。 
 以上を踏まえて、①「勘定科目」から順番に説明をしていきます。
 勘定科目とは、売上とか給料賃金とか租税公課とか新聞図書費などの、帳簿をつける上での金額の区分の名称のことです。
 所得税の申告の場合、一般的な勘定科目を使わなかったという理由のみで修正申告をしょうようされることはないので、ある程度自由に名前をつけることができます。ポイントとしては、この勘定科目は何を集計したものであるのか本人が説明できれば問題ないのです。ただし、ご自分しか理解できないような名称ではなく第三者が見ても内容がわかるような勘定科目にするのが良いですし、最終的には収支内訳書を作成するのですから収支内訳書に記載されている勘定科目に合わせるのが合理的です。
 勘定科目の中で「売掛金」と「買掛金」に馴染みのない方がいるかもしれませんのでこの2つだけ簡単に説明しておきます。
 所謂「ツケ」(これを掛けと言います。)の売上を「売掛金」、逆に「ツケ」の仕入を「買掛金」と言います。売掛金は債権であり、将来、現金を受け取れる権利で、買掛金は、将来、現金を支払わなければならない債務です。さらに、関連する「未収金」と「未払金」についても簡単に説明します。売上以外の掛けでは「売掛金」勘定ではなく「未収金」を用います。また、仕入れ以外の経費の未払いの場合には「買掛金」ではなく「未払金」を使います。

 次に②「貸方・借方」です。平たく言うと「左右」を簿記の専門用語で言い換えたものです。しかも、貸借と書くのに仕訳の際は借方が左、貸方が右で位置が逆なんです。まるで池袋の東武百貨店と西武百貨店みたいです。よく聞く覚え方としては、「かりかた」の「り」と「かしかた」の「し」に着目して左にはらう「り」は左側、右にはらう「し」は右側という覚え方があります。ちなみに英語では貸方は、a credit. 借方は、a debit. です。
 さらに仕訳について少しだけ触れておきます。仕訳は「現金」で覚えていただくとわかりやすいと思います。現金で売上が20,000円発生した時の仕訳は、

左側(借方):現金 20,000 /売上 20,000:右側(貸方)

 現金で2,500円の消耗品を購入した時の仕訳は、

左側(借方):消耗品 2,500 /現金 2,500 :右側(貸方)

 なんとなく法則がわかりましたか?「現金」が手元に入ってくるときは左側(借方)、出て行くときは右側(貸方)に書くと言う決まりになっているのです。

 次は③「減価償却」、1個で10万円以上のものを購入して事業に使用した場合にはその年だけではなくて何年間か使うでしょうから決められた年数で割った金額をその年の必要経費にしますという制度を減価償却と言います。届出を特にしなければ法定償却方法は定額法といって単純に減価償却期間が5年なら1/5、10年なら1/10づつ必要経費にする方法で計算します。ただし、最後の年だけは、帳簿に資産が残っていることを0円で示すことはできないので1円を備忘価格として残しておきます。減価償却方法には定率法や他の方法もありますが、最低限の知識を説明するという趣旨から外れるので今回は説明を省略します。

 4つ目は、④「事業主貸・事業主借と元入金」ですが、知識としてこんな言葉があるということさえ理解していただければ結構です。というのも、白色申告では、記帳や決算上で「事業主貸・事業主借と元入金」を用いることはないのです。それを踏まえて、説明を続けますが、「事業主貸・事業主借」については、既に私の記事「事業主貸と事業主借」で説明したので詳細については省略します。ただ、あえて事業主貸と事業主借を分けて使用する必要もないとも思っています。なぜなら、決算の段階で事業主貸と事業主借は相殺しても影響はないため、全て「事業主」という勘定科目で整理し残高が借方にあるのか貸方にあるのかでそれが「事業主貸」か「事業主借」かを判断するのも一つの方法かもしれません。
 さて、次に「元入金」とはなんでしょう。元入金のイメージとしては、会社でいう資本金なのですが、個人の場合はちょっと違います。青色申告の場合の元入金の計算式を下図に表します。

(※青色申告特別控除を差し引く前の所得金額を用いて貸借対照表を作成します。)

 上の図に示したように、元入金は毎年金額が変化します。ここは資本金とは異なる点です。前年の決算が正しく行われていないと翌年の元入金に影響が出るとも言えます。また、赤字が続くと元入金の残高がマイナスになることもあります。
 開業年の元入金や白色申告から青色申告に変更した初年度の元入金はどのように求めるのでしょう。
 個人事業主が開業した際は、開業日に用意した現金・事業のための預貯金・売掛金・支払われた小切手、事業用の固定資産などを「元入金」として計上し、記帳をスタートさせます。買掛金・預かり金・未払い金・借入金などがあれば、「元入金」から差し引きます。白色申告から青色申告に変更した初年度の元入金は、前年期末(前年12月31日)の資産合計から負債合計を差し引いて計算します。

 最後に、⑤「家事消費・家事関連費・事業専用割合」です。
 まずは、「家事消費」ですが、仕入れた商品などを家事のために消費したり贈与した場合、仕入れた段階で経費に計上されていることから、消費したり贈与した段階で、収入として計上しなければなりません。その際の約束事として仕入れたときの金額で収入に計上するのですが、6掛けや5掛けなどで通常の販売価額の70%の金額より仕入金額が低い場合は、通常の販売価額の70%で収入に計上しなくてはなりません。なお、家事消費も消費税の対象になりますが、所得税の計上基準と消費税の計上基準は異なり、仕入価額以上で、かつ、その仕入価額が通常の販売価格の50%以上の金額であれば、その金額で収入に計上することが認められます(消基通10-1-18)。
 次に「家事関連費」です。説明する前に所得税法施行令第96条(家事関連費)と所得税法基本通達45-2を参照してみます。

所得税法施行令
第九十六条  法第四十五条第一項第一号 (必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一  家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二  前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

所得税法基本通達
45-2 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。

 衣料費や食費などの家事上の費用は家事費といい、必要経費にはなりません。
 また、店舗兼住宅について支払った地代家賃や火災保険料、固定資産税、修繕費などのうち、住宅部分に対応する費用、水道料や電気料、燃料費などのうちに含まれている家事分の費用など、家事分が含まれている費用を、家事関連費事業専用割合と言います。家事関連費のうちの家事分は必要経費にはなりません。 必要経費の中に家事費や家事関連費が含まれている場合には、これらの金額を除外します。この家事関連費を家事分と事業分に区分する適切な割合が「事業専用割合」です。
 「事業専用割合」は使用面積や保険金額、点灯時間などの適切な基準によってあん分して計算します。
 例えば、自宅兼店舗の場合、自宅部分が55㎡、店舗部分が35㎡であれば事業専用割合は、

35㎡ ÷ (55㎡ + 35㎡) ≒ 38.89%

となります。なお、端数処理については、法令上の取り決めが無いため、継続摘要を条件に、小数点以下の処理をご自身で決めてください。参考として、国税庁の申告書作成コーナーでは小数点第2位まで計算可能で端数は切り上げ計算しています。
 白色申告の場合には、上記所得税法施行令96①二の規定を受けられませんから「その必要である部分を明らかに区分すること」が特に重要です。税務署からの指摘を受けないためにも、兼用電話の場合、例えば通話記録の内訳であん分する方法をとるとか、兼用車両の場合に走行距離であん分する方法をとるとかの工夫が必要です。