KEN SASAKI International Tax Accountant Office

マーケティング

お役立ち情報

 公益社団法人東村山法人会の令和3年6月20日発行の会報誌275号に寄稿したコラムへのリンクと抜粋を掲載しておきますので、是非ご一読ください。

マーケティングとは?
 マーケティングとは一体なんでしょうか? 単に消費者調査を行なったり、広告を出したりすることだと思っている方が少なくありません。しかし、これらはマーケティングという氷山の一角に過ぎません。
 今日のマーケティングは「セリング」つまり売り込むという古い感覚ではなく、顧客のニーズを満たすという新しい感覚で理解する必要があります。顧客のニーズを理解し、顧客が求めている価値を満たした製品やサービスを開発したうえで、適切な価格を設定し、流通させ、プロモーションすれば製品は自ずと売れていきます。それゆえ、マーケティングを「売れる仕組み作り」と言い切る論者もいます。また、経営学の神様とも称されるピーター・ドラッカーは「マーケティングの究極の目的はセリングを不要とすること」と述べています。私の大学院時代の恩師であり、B to Bマーケティングの大家である立教大学大学院の笠原英一教授は、マーケティングとは「顧客の満たされないニーズを見つけ、定義し、それに対してユニークなソリューションを提供することにより顧客価値を想像するプロセス」であると定義しています。

顧客ニーズの理解
 マーケティングにおいて最初に求められることは、顧客のニーズやウォンツ、ターゲット市場について理解することです。
 マーケティングの根底にある最も基本的な概念は人間のニーズです。ニーズとは「欠乏を感じている状態」のことで、食料や衣服、安全といった生理的なもの、所属や愛情を求める社会的なもの、そして知識や自己表現に対する個人的なものまであります。ニーズはマーケットを分析する人が作り出すものではなく、人間に本質的に備わっているものと言えます。
 一方、ウォンツはこのニーズが文化的背景や個人の特徴を通して具現化されたものです。例えば、食料というニーズについて考えた場合、中高年であれば、ウォンツはご飯に焼き魚、味噌汁になり、若者はハンバーガーやポテトになります。そして、ウォンツが購買力を伴うと需要へと姿を変えます。ニーズを具現化したウォンツが顧客の購入できる値段であれば、そこに需要が生まれます。
 優れたマーケティングを実践している会社は、顧客のニーズとウォンツ、需要を知り、理解するための労を惜しみません。市場調査を行い、膨大な量の顧客データを分析し、地位や役職にかかわらず経営陣を含めた全員が顧客と密に接しています。
 顧客のニーズとウォンツは市場提供物によって満たされます。市場提供物とは、ニーズやウォンツを満たすために提供される製品、サービス、情報、経験の組み合わせであり、無形サービスだけのものも市場提供物です。視野を広げると、人や場所、組織、情報、アイデアなども市場提供物に含まれます。
 売り手は、製品ばかりに目が行き、製品が生み出す顧客の利益や経験を軽んじるという過ちを犯すことがあります。所謂、マーケティング・マイオピア(近視眼)です。製品にとらわれすぎるあまり既存のウォンツしか意識せず、その背後にあるニーズを見落としてしまうことがあります。
 5ミリのドリルの刃を生産するメーカーがドリルの刃が顧客のニーズだと思っていたのだが、顧客の本当のニーズは「5ミリの穴」であったという話は有名ですので聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。
 市場にはニーズを満たしてくれそうな大量の製品やサービスがあふれています。これらのものを人々がどのように選択するか考えてみましょう。顧客は製品から受け取る価値(顧客価値)に期待を寄せて購入します。顧客が製品の価値に満足(顧客満足)すれば繰り返し同じものを買い、さらにその快い経験を他者にも伝えます。逆に、不満を持った顧客は往々にして競合製品に買い替え、不満を抱いた製品への非難を繰り広げます。したがって、顧客の製品への価値を慎重に形成しなければなりません。作り上げた期待値が低すぎると購買者は満足するものの、一部の購買者側の製品に流れてしまい十分な数の購買者を獲得することはできません。逆に高すぎると購買者を失望させてしまいます。顧客と良好な関係を築いていく上で鍵となるのが、この顧客価値と顧客満足という要素なのです。
 マーケティングで要となるのは、市場提供物との交換を通じてターゲットとなる顧客と望ましいリレーションシップ(関係)を作り、かつリレーションシップを維持するための努力を惜しまないことです。企業の多くは新規の顧客を開拓するだけでなく、顧客を繋ぎ止め、ビジネスを拡大させたいと思っています。そして、マーケターは継続的に優れた顧客価値を提供することにより、顧客と強固なリレーションシップを築きたいと考えています。
 交換やリレーションシップという概念の先には、市場という概念があります。市場とは、製品やサービスの実際の購買者と潜在的な購買者の集まりのことを言います。
 顧客と収益性の高いリレーションシップを作り上げるのがマーケティングですが、そのようなリレーションシップの構築は一筋縄ではいきません。販売者は購買者を探してニーズを特定し、優れた市場提供物を作り、適切な価格を設定してプロモーションを行い、在庫保管し、届けなくてはなりません。消費者調査、製品開発、コミュニケーション、流通、価格設定、サービス提供といった諸活動は、マーケティングの中核をなすものです。

参考文献

  • フィリップ・コトラー、ゲイリー・アームストロング、恩藏直人(2014)『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』丸善出版
  • 笠原英一(2019)『改訂版 強い会社が実行している「経営戦略」の教科書』KADOKAWA
クリックするとご覧になれます